RPAを用いた病院の運営における業務削減と医療の質の向上~自動化がもたらす医療現場の変革~

はじめに
電子カルテやオーダリング、医事会計システムなどの普及は医療現場のデジタル化を進めましたが、「システム間で情報を転記する」「CSVを出力して加工し、別システムへ取り込む」など、人の手が欠かせない作業はまだ多く残っています。
このような「デジタルなのに手作業」というギャップを埋めるのが、RPA(Robotic Process Automation:定型業務自動化技術)です。
本記事では、RPAの基本から病院での活用事例、導入による効果まで詳しく紹介します。
医療現場の業務負担と改善の必要性
病院の事務処理は、受付から診療、会計、請求、統計、各種報告まで、一連の流れとしてそれぞれが結びついています。例えば、医療事務が行う資格確認やレセプト点検、DPCデータの抽出などの業務は多岐にわたるうえ期限と正確性が求められますが、これらの業務は月初や月末に集中すしやすく、結果として夜遅くまで残業になることもしばしば。「締め切りの波」が周期的に押し寄せるなかで業務が属人化すると、繁忙期には残業が常態化し、ミスの発生リスクも高まります。
このような状況を改善するには、「誰が」「いつ」「何をしているか」を明らかにするして作業を可視化することや、誰でも同じ品質で業務を進められるように標準的な手順を確立すること、システムのすき間を埋めるために自動化することが重要です。
RPAは自動化の手段として即効性のある、有効な選択肢です。RPAを導入することで、定型的な事務作業を自動化し、スタッフは、より付加価値の高い業務に時間を割けるようになります。

RPAとは
RPAは、スタッフがパソコン上で行うクリック操作や入力、ファイルの加工、メール送信などをソフトウェア上のロボットが自動で実行する仕組みです。人が行う操作をそのまま記録して定義できるため、プログラミングの専門知識がなくても処理の流れを設定したり、実行スケジュールやエラー時の対応を指定したりできます。
RPA自体は新たな基幹システムではありません。既存システムの「すき間」をつなぎ、人の手作業を補う「運用の部品」として機能します。
RPAが得意な業務と不得意な業務
RPAが力を発揮するのは、ルールが決まっていて、例外が少ない業務です。代表例としては、定型帳票の作成、マスタデータとの照合、ファイルの命名や保存、CSVデータの整形、Webポータルからのデータ取得などが挙げられます。
一方、臨床判断を伴うプロセスや、現場での口頭による調整や確認が必要な業務はRPAには向きません。また、画面仕様が頻繁に変わるシステムはそのたびにロボットの修正が必要となり、保守の手間が増えてしまいます。 RPAを導入するかどうかを判断する際は、「人の判断や対応をどれだけ前処理で排除できるか」を目安に考えるとよいでしょう。判断の余地が少ない作業ほど、RPAが安定して効果を発揮します。
RPAの導入で期待できる効果
RPAの効果は、作業時間を単に削減するだけではありません。業務のプロセス全体を見直すことで、さまざまな好影響をもたらします。RPA導入によって期待できる主な効果を4つの観点から整理します。
業務の効率化、標準化、平準化
RPAは24時間実行が可能で、夜間にバッチ処理を行えば、翌朝の作業量を大幅に減らせます。また、作業手順がロボットに登録されているため、担当者が変わっても成果物の品質を一定に保つことができます。 また、締め切り前の業務の集中を緩和し、繁忙期の負担を軽減できます。すべての処理記録(実行ログ)が残るため、業務のボトルネックを可視化し、継続的な業務改善にもつなげることもできます。
収益の向上
請求漏れや算定ミスは病院の収益に直結します。RPAを活用してレセプト算定のチェック、特定加算の要件突合、基準日・経過日数の自動監視を自動化すれば、漏れや誤りを早期に発見できます。また、保険資格の事前確認や返戻処理の対応を自動化することで、キャッシュフローの安定化や回収期間の短縮にもつながります。
医療の質の向上
RPAは医師や看護師に代わって判断を行うものではありませんが、検査結果や記録の更新を自動化し、常に正しい情報を共有できる環境を整えます。検査結果の集約、アラートの定時送信、看護必要度や転倒転落指標のタイムリーな集計により、現場が「必要なときに必要な情報」にアクセスできるようになります。その結果、患者の待ち時間の短縮や、重複検査の回避、チーム内の認識共有が実現し、医療の質の向上につながります。
コンプライアンスや監査対応の強化
RPAはすべての処理を自動で記録するため、「いつ」「誰が」「どの手順で」「どれだけの件数を処理したか」を正確に把握できます。監査時の照会にも迅速に対応でき、作業の再現性と透明性を確保できるようになります。
また、個人情報を扱う業務では、ロボットにアクセス権の制限やファイルの自動暗号化、送信先の固定設定を組み込むことで、誤送信や情報漏えいのリスクを最小限に抑えることができます。

主な部門での活用事例
医事課
医事課の業務では、レセプト点検前のデータ整形、出来高と包括の突合、返戻や再請求の台帳更新、保険資格確認の一括実行、算定要件のアラート配信などが対象として考えられます。これらの業務は複数のシステムを横断してデータを扱うため、手作業では時間がかかり、ミスが発生しがちです。
また、経営指標や業務実績に関する統計資料を定期的に作成し、報告することを求められることも多いはずです。その点についても、RPAを導入することで病床稼働率、平均在院日数、救急受入件数、手術件数、感染症サーベイランスなどのデータを自動で集計し、あらかじめ定められたフォーマットの統計表やグラフを決まった時間に生成することができます。集計の手戻りがなくなり、会議や報告資料の準備を自動化できます。
看護部門
看護必要度の集計、病棟別の平均在院日数や重症度のダッシュボード更新、未実施オーダーの抽出と通知、入退院予定一覧の自動配布といった看護師の業務をRPAで自動化できます。夜間のうちにロボットがレポートを作成しておけば、朝の申し送り前には最新の情報が揃い、現場の準備負担を大幅に減らせます。 ある病院では、各病棟の入院患者数やベッド稼働率、入退院予定、手術・検査予定件数などを毎朝集計し、看護師の応援配置を調整しています。以前は毎月約7時間かけて人手でExcelを更新していたのですが、RPAに集計作業を任せることで、3分の1の時間に短縮することができました。
薬剤部門
薬剤部門では、持参薬情報の取り込み、注射薬の採用マスタとの突合、相互作用アラートの集計、疑義照会記録の整理、麻薬台帳や血液製剤の報告など、マスタと記録が交差する業務にRPAを導入するのが有効です。
検査部門
検査部門では、外部検査会社から毎日大量に届くデータを正確に処理し、素早く医師や看護師へ共有することが求められます。RPAは、検査情報システム(LIS)と電子カルテの間をつなぐ「橋渡し役」として働き、データの連携ミスや処理漏れを防ぐことができます。
ある中規模病院では、検査データの集計や異常値の通知、外注検査の進捗管理、医事会計システムへの反映などをRPAで自動化しました。その結果、1日あたり数百件の手入力作業が不要となり、作業時間は大幅に減少。さらに、異常値の通知がリアルタイム化されたことで医療スタッフがより早く対応できるようになりました。
まとめ
RPAはシステムを大規模に刷新することなく、現場の運用を素早く変える実践的な改善ツールです。導入のポイントは、まず対象業務を洗い出して例外を整理し、小さな単位で確実に運用を回すこと。効果を確認しながら改善を重ね、他部門へ展開していくことが成功の鍵です。
目指すゴールは、スタッフが本来の価値を生む業務—患者と向き合うケア、臨床判断、チームコミュニケーション—に専念できる時間を取り戻すこと。RPAは人と医療をつなぎ、病院の持続的な運営と質の高い医療を支えます。
ユカリアのグループ会社である株式会社リメディカが病院向けに提供するBPOサービス は、RPAやAIを活用することで、業務の標準化と最適化を支援します。ぜひこの機会にお問い合わせください。
