病院にRPAを導入する~成功までのステップと実践ポイント~

はじめに
今、 RPA(Robotic Process Automation: 定型業務自動化技術) が注目されています。確認作業や転記作業が積み重なり、人手不足も相まってスタッフの負担が増大している医療現場において、RPAはこの状況を改善するための有力な手段です。
本記事では、医療現場にRPAを導入するためのステップを「準備」「開発・実装」「運用保守」の順に説明します。「自院でも進められそうだ」と感じていただけたら幸いです。
導入準備
RPAの導入は、準備の良し悪しで成功が大きく左右されます。ここが不十分だと、後から手戻りが発生し、想定以上にコストがかかる可能性があります。
そこで、準備段階で押さえておくべき3つの要素について説明します。
業務の可視化
診療報酬請求の確認作業、検査データの転記、患者情報の名寄せなど、一つひとつの作業にかかる時間は短くても、積み重なると大きな負担になるものは数多くあります。日常的に行われている業務であり、職員自身が「自分たちがどれほど多くの作業を抱えているか」に気づきづらいため、まずはスタッフ総出で業務の棚卸しを丁寧に行い、業務内容を漏れなく洗い出すことが重要です。
特に気をつけたいのは、担当者だけが知っている、属人的な手順や判断基準、例外処理です。棚卸しの段階で、作業時間に加えて「どんな条件で判断しているか」「どのような例外パターンがあるか」を明確にしておくことで、後で行う業務の選定やロボット開発がスムーズになります。
業務内容が整理できたら、手順をフローとして文書化します。次工程の「設計図」になります。
RPA適用業務の選定
視化した業務の中から、「作業ルールが明確であること」「デジタルデータとして処理できること」「作業頻度が高いこと」「工数削減効果が見込めること」などを基準に、ロボット化に適している業務を選びます。 ここで注意したいのは、画面操作の自動化を前提にしすぎないこと。電子カルテやオーダリングシステムは、ベンダーのアップデートで画面が変わることがあるため、仕様変更によってロボットが停止するリスクを見込む必要があります。導入前にシステム更新のスケジュールを確認しておくと、安全に運用しやすくなります。
費用対効果の試算
RPAは、ライセンス費用などのツール利用料だけでなく、開発や運用の費用も含めて評価します。小規模な病院では最初から大規模投資を行うのではなく、対象業務を明確にしたうえで小さく始めると安全です。
また、「削減時間=削減コスト」と単純に結びつけてしまうと、誤った判断につながることがあります。削減時間をどのように活かすかによって効果が大きく変わります。職員のシフト調整や業務分担の見直しを行わなければ、時間が削減されても人件費がそのまま残るケースもあります。
費用対効果を試算するときは、工数削減といった定量効果だけでなく、職員の負担軽減や品質向上などの定性的な効果も合わせて整理することが重要です。RPAの導入が病院全体にもたらす価値をより正確に判断できるようになります。
開発と実装
準備が整ったら、ロボットの開発に進みます。実際の業務画面を録画し、手順を細かく洗い出しながらロボットの挙動を設計します。
開発段階でよく発生する課題が「端末環境の違いによる不具合」です。画面の解像度やブラウザのバージョン、アプリケーションの設定の違いによっては、ロボットが動かないことがあります。トラブルを減らすためにも、可能であれば、運用に使う端末を固定し、環境を標準化しておくとよいでしょう。
ロボットが完成したら、テスト運用を行います。複数の診療科を扱う場合、画面を少しずつ変えると、ロボットが特定のケースで停止することがあります。そのようなトラブルを避けるため、複数パターンのデータで事前検証を行いましょう。テスト時に「業務の例外ケース」を確認することで、本番稼働後のトラブルを大きく減らすことができます。テストが完了すると、本番環境へ実装します。
運用と保守
「運用保守」の状況においても、意外とつまずくことが多いので要注意です。電子カルテや基幹システム、Windowsアップデートなど、システム変更が頻繁に起こると、ロボットが突然動かなくなる可能性があります。
そのようなケースを避けるため、ロボットを監視する仕組みを整えましょう。「実行ログを定期的に確認する」「異常終了した場合に通知を飛ばす」「月次で稼働状況をレビューする」など、運用設計をしっかり行うことでトラブルを未然に防げます。
また、業務内容の変更や作業量の増減に合わせてロボットをメンテナンスできる体制も必要です。「ロボットが止まったとき誰が対応するのか」をはっきり決めないまま導入すると、問題発生時に対応が遅れ、導入効果が下がってしまいます。担当者の異動や退職に備えて、業務手順や仕様を文書化しておくことも大切です。
RPAを導入したときに見られる課題と対策
RPA導入時の課題を技術、組織、運用の面で改めて整理します。ここでは、その代表例と対策を紹介します。
技術的な課題
組織的な課題として「システム変更に弱い」「処理速度が不安定」の2点がよく挙げられます。ロボットは画面操作に依存するため、仕様変更の影響を受けやすいのが特徴です。変更に強い設計を行い、ログを丁寧に記録しておくことで、異常時の原因究明が容易になります。処理速度については、ネットワーク負荷の影響もあるため、情報システム部門との連携が欠かせません。
組織的な課題
「自分の仕事が奪われるのでは」という現場の不安は根強いものです。説明会やデモ動画の提示を通じて、RPAの目的がスタッフの負担軽減であることを繰り返し伝えることで、理解が深まります。
運用上の課題
ロボットを管理する担当者が不足するケースがよく見られます。せっかく作ったロボットも、運用されなければ価値を発揮できません。担当者を事務部門内に配置し、月次レポートの作成や稼働状況の可視化を行うことで、ロボットの健全な運用が維持されます。異動時の引き継ぎ不足を防ぐためにも、運用ルールの文書化は欠かせません。
上記に挙げた3つの課題のうち1つだけを解決しても不十分です。3つは相互依存の関係にあるため、バランスよく対応する必要があります。
RPAは単なるツールの導入ではなく、業務プロセスの改革でもあります。RPAは次のサイクルで価値を創出します。開発・改善(技術) → 運用監視(運用) → 改善フィードバック(組織)→(最初に戻る)
このサイクルが回らなければ、導入してもすぐに止まるか形骸化します。3つを同時並行で整えることが成功の鍵です。
RPA導入を成功させるためのポイント
RPAを成功させるためのポイントは、次の3点です。
「スモールスタート」を心がけること。最初から多くの業務を自動化しようとすると、開発や検証が追いつかず、失敗しやすくなります。まずは1つか2つの業務を対象にし、成果を確認しながら徐々に広げていく方法がおすすめです。
次に、「経営層のコミットメント」です。院長や理事長がRPAの有用性を理解し、「これは病院の未来のために必要な取り組みだ」と発信すると、現場も安心します。経営層の後押しがあった病院では、RPAがスムーズに浸透しやすい印象があります。
さらに、「現場との協業」も欠かせません。業務を熟知している現場スタッフの意見を取り入れることで、使いやすく効果の高いロボットが生まれます。

まとめ
RPAは、病院の事務作業を静かに、そして確実に支えてくれる仕組みです。
まずは現場の作業を見える化し、RPAに代替することが適している業務から順番に取り入れていくことで、無理なく活用が進みます。導入の途中では調整が必要になることもありますが、現場の声を取り入れながら育てていくことで、次第に効果が実感できるようになります。
病院の働き方を少しずつ前向きに変えていく頼もしいパートナーとして活用しましょう。 ユカリアのグループ会社である株式会社リメディカが病院向けに提供するBPOサービスは、RPAを活用することで、業務の標準化と最適化を支援します。ぜひこの機会にお問い合わせください。
